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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)351号 判決 1948年7月20日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人永山健次辯護人小池義一及被告人永山健次並被告人森寿辯護人小池義一、同笹原寿生の上告趣意は末尾に添附した別紙書面の通りである。

被告人永山健次辯護人小池義一の上告趣意第一點について。

しかし窃盗の共犯者と意思連絡のもとに見張をした場合は窃盗の共同正犯と斷ずべきものであるということは、大審院數次の判例の示すところであって、今これを改めなければならない理由は認めえられない。原判決において證據として擧示した被告人に對する豫審第一回訊問調書及大村文秀に對する豫審第一回訊問調書によれば、被告人は本件犯行について徳田徳一、大村文秀と相談をした上で自らは見張をした事実を認め得るのであり、原判決は右事実を認定して刑法第六十條を適用したものであるから所論の如き法律の解釋適用を誤つたものではなく論旨は理由がない。

同第二點について。

原判決は、擧示の證據により被告人は大塚敏春、三成某と意思連絡の下に何れも被害者方の屋内に侵入して金品を強奪した事実を認定したのであって、被告人は三成某の爲匕首で脅迫され已むを得ず本件犯行の現場近くに立っていたに過ぎないという被告人の原審公判廷の供述並に右被告人の供述に照應する原審證人大塚敏春の證言は原審の措信しなかったものであることは明かである。しかのみならず被告人の原審公判廷における供述によれば、三成某の爲匕首で脅迫されたので犯行の現場近くに待っていたのであって、強盗の見張をしたのではないと犯行を否認しており、被告人の辯護人もまた被告人は本件犯行には關與しないという事実を立證する爲第一審相被告人大塚敏春を證人として喚問ありたしと述べていることも記録上明白であって、三成某の爲匕首で脅迫をされ其危難を避ける爲已むを得ず見張をしたのであるから犯罪の成立を阻却するとか、刑の減免の事由があるとかの主張をした形跡は無い。從って原審において此點について刑事訴訟法第三百六十條第二項の判斷を示す必要のない事は明かであって同條第二項の判斷を示さない違法があるとの論旨は理由なきものである。

被告人森寿辯護人小池義一、同笹原寿生の上告趣意第二點について。

しかし原判決擧示の證據によれば、本件犯行について第一審相被告人等と被告人との間に共謀の事実ありと認め得ることは、第一點において説明した通りである。論旨は何日何處で誰々との間に如何なる通謀をしたかの事実理由を判決に明示しなければならないというのであるが、共謀の日時場所は必ずしも判決に明示する必要はなく誰々の間に本件犯行の共謀があったかは判文自體により明かであり且第一審相被告人等と被告人との間に主従關係があるとか、對等關係でないとかの事実は、原審では認めないのであるからことさらに對等關係で共謀した旨を説示しなくとも所論の如き違法はない。論旨は獨自の見解に基き原判決の理由不備を主張するのであって採用に値しない。

同第三點について。

しかし原判決擧示の證據により、被告人と第一審相被告人との間に本件犯行について意思連絡があり、しかも相被告人等と被告人との間に主従關係とか、不平等關係があったということは原審で認めないのであるから所論の如き主犯とか從犯との區別は認められないのである。被告人は直接財物窃盗行爲をなさずただ見張をしただけであるから幇助罪として斷ずべきものだと主張するのであるが、原審においては本件共犯者間には強盗についての意思連絡ありと認定したものであり、強盗についての意思連絡の下に見張をしたものは共同正犯として處罰し得べきことは大審院判例の示すところであって、今これを改める必要なしとの見解に基き強盗の見張をした被告人を強盗の共同正犯と斷じたことを窺い知ることができるのであるから所論の如き刑法第六十條の解釋を誤つたものではない。從って論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四百四十六條により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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